- 2015年11月11日
- ストーリー
「ストーリー戦略」が可能にするもの
出典:http://nihongo.istockphoto.com/
小規模ながら会社を経営している知人から、とてもシンプルな質問をされる機会があった。
どうして戦略に「ストーリー」が必要なのかと。
中小企業だろうが、大手上場企業だろうが、なにかしらの経営戦略を掲げている。そのなかで、「ストーリー戦略」という言葉を知ったらしい。
まずはじめに、質問を質問で返してみた。
「御社の経営戦略はどのようなものですか?」と。
すると知人は、「×年後までには××事業部門の××達成率を125パーセントに底上げし、××のコストをマイナス30パーセントに引き下げる……」と教えてくれた。
なるほど。具体的な数字が散りばめられた立派な戦略をお持ちのようだ。いつまでに、なにをどの程度どうしたいかは理解できたが、それを戦略として掲げるに至った経緯と根拠が目に見えない。
なによりも、従業員たちはその戦略達成の重要性を理解しているのだろうか。
「仮定の話ですが、あなたが一般の従業員として勤めていたとしましょう。そして、その戦略を会議で決まったことだからとトップダウン方式で提示されたとき、すぐに理解できますか? ひょっとしたら、そもそも戦略ってなんだろうと思う同僚もいるでしょうね」
少し嫌味っぽくなったかもしれないが、改めて問いかけると知人は腕を組んで考え込んでしまった。
では戦略とはなにか、ストーリー戦略とはなにか、考えてみよう。歴戦のビジネスマンからすれば当たり前のことかもしれないが、ここは復習だと思って。
戦略とは
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戦略を定めるには数学的な根拠が必要になるだろう。
売上高の推移や価格設定、顧客の需要に人件費の配分比率など、多くの要素を盛り込んだ具体的なものだ。それらをふまえ、なんのために「経営戦略」をたてるのか質問をすると、こう返ってくるだろう。
「今よりももっと利益を上げるため」だったり、「ブランド価値を高めるため」など、こうしたニュアンスの答えだ。
そのためにどうするべきかを筋立てていくのが「戦略」であり、長期的な指針は重要だ。いまよりも悪い状況にするために戦略を立てる経営者など、いるはずがない。
では、「いまよりももっと利益を上げるため」にはどうすればいいか掘り下げてみたい。
そこに必要なのは、「差別化」だろう。
例えば目の前の棚いっぱいに、市販の感冒薬が並んでいるとしよう。どれも似たような効能を謳っている商品のなかから、あなたはどの製薬会社の商品をカゴにいれるだろう。
薬剤の形状で選んでいるかもしれないし、単純に価格だけで決めているかもしれない。ちょっと薬剤に詳しい人は、裏面の成分表を読んで決めるかもしれない。さりげなく行っているが、この行動は紛れもなく比較・選択による差別化だ。
製薬会社は、類似品でも他社となにが違うのかを明確にし、その差異がどれだけのターゲット層に響くのかを探らなければ勝者にはなれない。
もちろん「広告宣伝費」の投資規模にもよるだろうが、広告宣伝方法にも「差別化」が必要であることは、容易に想像できるだろう。似たようなBGMとナレーションのCMでは、どちらも混乱してしまい顧客の記憶に残らないからだ。
つまり、他社との差別化なくして戦略は成り立たない。そして、どんなに精密な分析やシミュレーションを重ねて掲げた戦略であっても、賛同し理解を得ることができなければ意味がないのだ。
シミュレーションの限界
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戦略を練るにあたり、数学的データだけではなく、ある状況を「仮定」したシミュレーションをするだろう。
数年後までに、とある商材流通コストAを、コストBにした状況を想定し、その差異で収益あげるためのプランを「戦略」の一部として掲げているとしよう。
おそらく、専門部署や担当によるシミュレーションがプランの根拠になるのだろうが、自分が経営者の立場ならば、もう一声と言いたい。
なぜならば、「どうしてコストAがコストBになったのか」という因果関係が、数字だけでは対外的にはっきりと伝わってこないからだ。もっとわかりやすく、具体的なものが欲しい。
下手をすると、コストAの削減にゆかりのない従業員や部署も存在するだろう。
「わかるひとにはわかる」ような状態では、戦略とは言えない。
先の話から再度例えをあげれば、市販薬の製造販売メーカーが「うちの商品の良さがわかるひとだけが買ってくれればいい」なんて傲慢な商売をしていたら、数年後には棚から消えているだろう。
あっという間に他社との差別化、改良化の波に置いてきぼりにされてしまう。
戦略を実行するときも同じだ。
「どうしてコストAがコストBになったのか」、その因果関係を理解できない「多数派」を差し置いて、どうして実現できよう。
仮にシミュレーションで得られる結果から確かな因果関係を説明できたとしても、数値では伝えきれないものが沢山ある。
数値的データはひとつの指針であり、シミュレーションに取り入れた数値を実現可能にするのは、従業員や消費者だ。こころを持った人間による行動が起因になる。
シミュレーションを重ねることはとても重要だが、シミュレーション内容に共感性がなければ、「よくわからない架空の理論」で終わる。「そういうものなのだ」と無理やり飲み込むほかない。
少しずつ見えてきただろうか。
戦略に加えるべきものはなんなのか。
「共感性」だ。
ストーリーなくして、ひとは動かせない
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ストーリー戦略なんて、卓上の空論だと思うひともいるだろう。今回の知人も、本心では「架空の物語を戦略だなんて」と思っていたのだろう。
しかし、「仮定の話ですが、あなたが一般の従業員として勤めていたとして、その戦略を会議で決まったことだからとトップダウン方式で理解しろと言われたら、本質を理解できますか? ひょっとしたら、そもそも戦略ってなんだろうと思う同僚もいるでしょうね」と問いかけたときの知人は、考え込んだ。
役員や上層部が決めたことだからやらなければならない。
そんな雰囲気に心当たりがあるのかもしれない。
ではどうやって、一致団結し、皆が同じ方向を向いて歩めるのか。どうやったら伝わるのか、思考を巡らせていたのかもしれない。
ストーリーは、ファンタジーな童話であるとは限らない。
数学的なシミュレーションに基づいた戦略が骨だとすれば、ストーリーは肉だ。
「AをBにする」ことが目標だったとして、なぜAをBにする必要があるのかきちんと伝わらなければ、目標達成のための「戦略」としての存在意義が極めて希薄になる。
そこで「ストーリー」の出番だ。
よりリアルで共感できるストーリを加えることで、いままで掲げてきた戦略に「リアル」が加わり、多くの理解を得られる可能性が高まる。
もしも新しい商材の販売営業プロジェクトに参加することになったとき、「商材Aを1万個売ることにより得られる利益はBなので、目標はBだ!」と掲げれれても、マーケティングによる予測数値だけでは理解しにくい。
どんなに商材のスペックが高くても、なぜ商材Aが1万個も売れる予想をしているのか、ピンとこないからだ。
しかし、商材Aのターゲット層が手にとろうと思う心境や環境をストーリーにして提示し、商材Aを手にした顧客に生活変化を与え、口コミやネットでの書き込みなどの宣伝効果Cも生じ、結果、Bという利益が期待できると説明されれば、共感性が高まる。
ストーリーで共感性を高められたことにより、骨であった数学的なシミュレーションに基づいた戦略にプラスアルファが加わり、より明確でリアルなものになったケースもある。
戦略は「差別化」だと言ったが、「他社と自社が差別化できるポイントにおいて共感させるもの」として、ストーリーは必要なのだ。
世の中を動かしているのはひとだ。ひとを動かすには、こころを動かさなければならない。
ストーリーは肉であり、骨にもなる立派な「戦略」だ。